【注意】

・ジャ→遊

・ジャ遊の性描写有

・ジャックとカーリー、その他諸々の女の性描写有

・カーリーが性格悪い

・参照物:北川みゆ/き『罪に濡/れたふたり』

・そんな勘違いはしないだろ、というツッコミは心の中でお願いします

 

 

 

  いいワインが手に入ったから、とカーリーに誘われ訝しむことなくマンションを訪れたことがいけなかった。
 勧められるままにグラスを幾度も傾け、希少な価値のついたカルーアも嗜んだ。これはブルーアイズ・マウンテンのリキュールで、甘いものが苦手な俺でもカルーア・ミルクをおかわりしてしまう程の味だった。カーリーは意外にも酒の味がわかる女だ。遊星やクロウはホイールのプログラミングに夢中で酒に嗜好をもたなかったし、十六夜のような女と酒を飲んでもまずくなるだけだ。狭霧はキングとして君臨していた頃に何度かバーで飲んだことはあったが、酒に弱く体をもたれかかせ、ホテルに誘うことがあったので辟易し、一緒に飲みたくはなかった。一方カーリーは自分で自分にコールを振って飲みすぎてしまうことはあったがこれといった失態もなく、自分で二日酔いの処理ができ、素人ながらそこそこの味のカクテルを作ることも出来たので、飲む相手としては最適であった。二人で何度も杯を空け、一滴もワインの残らない瓶が幾本か床に転がる。夜も更けたのでそろそろ帰ろうと席を立つと体がぐらっと傾き、テーブルに手をついた。
 「ジャック、飲み過ぎちゃったのね。その調子じゃ帰れないだろうし、第一酔ったままでDホイールには乗れないわ。今晩は泊まっていけば。」
 そう言ってカーリーが宿泊を勧めてきたので、俺は言葉に甘えてカーリーのベッドを借りることにした。生娘でもあるまいし、何も言わず外泊しても遊星たちに咎められることはあるまい。フローラルな洗剤の匂いがするシーツを被り、ぐるぐると回る視界を瞼で覆い、酒の高揚感の中で俺は眠りについた。

 久しぶりに酒を飲み過ぎてしまったのか、奇妙な夢を見た。俺の隣に遊星が横たわってるのだ。うっすらと開いたその目は、その唇は俺を欲しがっていた。普段の遊星は俺の隣で眠りはしない。そういう関係ではないからだ。朴念仁の遊星は俺の気持ちなど露程も知らずにいる。だからこの遊星は俺の夢の中の遊星だ、と認識し、ならばこれ幸いにと夢の中だけでも遊星をおかそうと手を出した。
 そっと頬をなで、軽く唇を指でなぞる。それから唇づけをし、遊星のおでこに、まぶたに、まつ毛に、頬にキスをする。耳たぶを優しく噛み、首筋を舌でなぞり、キスマークをつける。遊星も高揚しているのか、浅い呼吸を何度もして、鼓動は早く脈打っていた。既に遊星は裸だった。胸からわき腹を手でなで滑らせる。くすぐったかったのか腰をくねらせた。右手の指を遊星の口に入れ、存分に遊星の舌の感触を感じつつ、胸を舐め、遊星の感じたところを執拗に攻めた。左手は遊星の男根を握り、ゆっくりと上下させる。―お前にも痕をつけたい、と言うので、俺の体にキスマークをつけさせつつ、俺は服を脱いだ。お互い一糸纏わぬ姿になると、抱き合い、また遊星を攻めた。太ももをキスし、舌で舐める。早く局部の快感を得たかったのか、遊星の腰はわずかに上下していた。男に対して可愛いと思うのもおかしいが、その姿は確かに可愛いかった。充分にじらしてから、ようやく男根を口に含む。その快感で遊星は小さなうめきをあげた。舌で敏感なところを丹念につつく。蛇のように舌を絡ませ、動かし、吸う。一方で優しく手で大事な部分をさすったり、蟻の戸渡りをこすった。その後、中指を遊星のもう一つの秘所に挿入する。ゆっくりと優しく、指の腹でひだを圧迫するように動かす。前立腺の辺りを何度も揉むようにこすると、遊星は声にならない喘ぎをあげた。反応がよかったので、人差し指も挿入し、広がり具合を確かめる。どうやら夢の中の遊星は指で馴らさずとも入れられるようだ。俺は我慢できなくなり、「遊星…」と呟き、ついばむようなキスをし、正常位で遊星の中に侵入した。遊星の中はとても熱く、とろけてしまいそうだった。今度は先ほどのようなキスではなく、濃厚に舌をからませ、お互いの感触を堪能した。遊星の唾液はとても美味で、甘く痺れる味だった。その対価として俺の唾液を遊星に与えると、遊星も存分に味わい、満足げな顔をした。
 不思議な気持ちだった。こんなことをするまでは遊星を加虐的におかしたいと思っていた。遊星を蹂躙し、苦痛を与え、俺で満たしたかった。一生残る傷をつけて、俺のものだという証をつけたかった。こうした恐ろしい感情を、何も知らない遊星にぶつけるのは憚られたので、その欲望を他の女で解消してきた。狭霧に、カーリーに、名も知らぬチアガールに欲望のたけをぶつけた。キスも前戯もしなかった。女にひたすら奉仕させ、痛い、と泣く声を無視してがむしゃらに攻めた。無言で女の背中に爪を立て、引っ掻き、噛み付き、痛々しい痕をつけた。だが欲望は満たされることなく、その反対で、遊星への飢餓感をより一層高めた。その飢餓感が欲望を駆り立て、更に女に対してひどいセックスを求めるようになった。
 だが、今は、俺の心の中は加虐嗜好が一切存在せず、その代わりに遊星への愛おしさ、深い充足感で満たされていた。女に爪を立てた手は優しく遊星の髪を梳き、男根を攻め、掻き抱いた。女の体に禍々しい歯型をつけた口は遊星を傷つけず、唇で乳頭を覆ったり、遊星の乾いた唇を舌でなめたり、耳に息を吹きかけたり、愛の言葉を囁いた。たとえ女の秘所が傷ついて血が流れようとも攻めた腰は、ゆっくりと遊星を確かめるように動いた。遊星のまたたきひとつ、毛一本に至るまで狂わんばかりに愛おしく、愛おしく思うたびに遊星の名を口にした。遊星の目は濡れ、瞳孔は月光でトンボ玉のようにきらきらと輝き、その奥に情念が宿っていた。少し開いた唇は攻められるたびに小さな悲鳴をあげた。荒い息遣いの中、「ジャック…」と何度も呼びかける。そのたびに俺も「遊星」と応える。この世の言葉は「ジャック」「遊星」の二語しかないかのように、俺たちは何度も互いの名前を呼び、確かめ合った。
 何回遊星の中を攻めたのだろう、そろそろ絶頂を迎えそうだった。まだ遊星を感じていたかったし、酔いで喉が渇いたので、一旦動きを止め、繋がった状態でサイドテーブルに置かれたペットボトルに手を出し、ミネラルウォーターを飲んだ。遊星も欲しがったので口移しで水を与えてやった。ごくり、と喉仏を動かして遊星が水を飲む。もう一回口移しで水を飲ませると、行為を再開した。遊星は他の女のように下品に声をあげることはなかったが、自分の指を食んだり、シーツを握り締めて身をよじることで快感を表現した。その姿はさながら生きたまま標本にされる蝶だ。
 1秒でも早く遊星の中で絶頂を迎えて幸福感に浸りたい欲望と、1秒でも長く遊星を感じていたい欲望が俺の中で背反して、俺の衝動をたきつけた。だが、もうだめだ。遊星も限界らしい。互いの名をあげてキスをして、とうとう果てた。心地よい疲労感と充足感に満たされ、汗も体液も気にせず、遊星の上につっぷした。早鐘のような脈動と火照った体の熱を感じた。この脈動は遊星ものか俺のか、この体の熱はどちらのか、わからない。わからないほどに俺たちはとけあっていた。まどろみの中、「遊星―愛している…。」と耳元で囁いた。すると遊星は「ジャック、私もよ。」と、女のような声で応えた。奇妙な違和感を感じつつも、夢の中ならばそういうものだろう、と変に納得し、俺は眠りについた。

 翌朝、二日酔いの痛みで目が覚めると、おれはまた違和感を感じた。横を向くと、遊星ではなく、カーリーがいる。それはいい。だがシーツをめくり、カーリーが裸であるのを確認すると、俺は衝撃を受けた。
 ―もしかして、夢で見た遊星とのセックスは、現実ではカーリーとのものだったのか?
 想像してとたんに吐き気に襲われた。遊星にした慈しみをこの女にしてしまった。これまで幾人の女を幾度も抱いたが、さして後悔も反省もしなかった。なぜならそのセックスはいってしまえば生きた人形を使った自慰のようなものだったからだ。だから優しく抱いたことはなかった。それが、昨晩、勘違いではあるが愛をもって抱いてしまった。これは遊星、あるいは‘遊星への愛’という俺のプライドに対する裏切り行為だ。
 ―とんでもないことをしてしまった。…、いや、やはり俺はカーリーを抱いてはいなかったのではないか?そうだ、カーリーはただ裸になってベッドに入り込んだだけだ。
 そう思うことにして、顔でも洗って気持ちを落ち着けようと、ここから離れようとすると、二日酔いで足元がふらつき、勢いよくベッドに腰掛けてしまった。
 ―とりあえず水を飲もう。
 ペットボトルの水を飲むと、柔らかい腕がすっと伸び、俺を後ろから抱きしめた。カーリーが耳元で言う。
 「ねぇ、ジャック、昨晩みたいに口移しで飲ませて。」
 背中に怖気が走った。やはり、俺は…。
 「すごーく気持ちよかったんだから。ジャックって、あんなセックスもするのね。」
 ―やめてくれ。
 「いつも私を抱くときは蔑むような目で、無言でするのに」
 ―やめてくれ。
 「あの夜は優しく抱きしめてくれた。キスも初めてしたけど、すごく上手なのね。」
 ―聞きたくない。
 「ジャック、遊星を愛しているのね。すごくそれがわかった。」
 ―汚さないでくれ。
 「あんなに慈しまれるセックスは初めてだったんだから。」
 ―思い出させるな。
 「…あんなに惨めなセックスも初めて。」
 ―やめろ。
 「自慢しなさいよ、遊星に。お前とのセックスは他の女とは段違いだって。」
 ―やめろ。
 「…自慢しなさいよ!!」
 ―これは本当にカーリーなのか?
 「でも、おかげでプレゼントをもらっちゃった。」
 その意味がわからず、俺は振り向いてカーリーを見た。するとカーリーはにっこり笑って腹部を愛おしそうになでた。
 「ジャックとの赤ちゃん。いつもジャックは避妊具を着けるのに、あの晩は着けずにしたから、できてるかもね。」
 世界が暗転したようにみえた。震え、掠れたような声を振り絞って言った。
 「本当なのか?」
 「あったりまえじゃない!私、ジャックとしか経験がないんだもの。」
 「だが―俺は―遊星が―」
 「相手が男だろうが諦めないんだから。ずっと一緒よ、私たち家族は。もし私を愛してくれないんなら…お腹の子が男の子だったら、ジャックのような性格にして、私から離れられないような子にする。ジャックの代わりに私を愛してもらうんだから。」
 血の気が失せていくのがわかる。嘔吐しそうだ。
 「ねぇ、ジャック。愛してくれなくてもいいの。籍を入れて。この子が可哀想よ。それから、一緒に名前を考えて。」
 気を失いそうだ。自分に触れられた他人の体温が気持ち悪かった。
 「ジャック。」
 ―遊星。
 「愛してる。」
 ―愛してる。